Three Billboards Outside Ebbing, Missouri
『スリー・ビルボード』
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本年度劇場鑑賞作品vol.10
↑詳しいストーリーや人物情報は、こちらを御覧下さいませ↑
監督🎬【マーティン・マクドナー】
【フランシス・マクドーナンド】
【ウディ・ハレルソン】【サム・ロックウェル】
【アビー・コニッシュ】【ジョン・ホークス】【ピーター・ディンクレイジ】【ルーカス・ヘッジス】【ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ】
配給会社〔20世紀フォックス〕
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久しぶりに全体を通して完成度の高いハリウッド映画に出会えた。伝え甲斐があり、鑑賞に手応えがあった。
1年間で百4・50本の新作を劇場鑑賞しますけど、総合的な充実度で考えたら、No. 1だと思います。
私の場合、ハリウッド映画には展開や削ぎ落としに減点要素を強く感じるので、先に書いた『デトロイト』などでも触れましたが、この部分に拘り、減点することが多いです。
例えば、1つの糸(綱)の上を渡りきる綱渡りを、この作品とするならば、
最初から最後まで、余計な重力がかからずにピンと張った状態で完走できた印象です。
作り手は、両手でバランスをとって、体幹をしっかり持って慎重に渡っていき、観る手は、その様子を、ヒヤヒヤしながらも安心して観ていく。
そして完走後は達成感。お互いに達成感。
来月4日に授与式が行われる第90回アカデミー賞でも最多7部門でノミネート。
前哨戦でも勝利し、多くの予想がこの作品に集中しています。
私も、ほぼ間違いなく、
『作品賞』・『主演女優賞』・『助演男優賞』の3部門で受賞するだろうと視ています。
(助演男優賞部門は5名中2名がノミネートしています。私の予想ですとサム・ロックウェルです。)
作品賞・各俳優賞、全てのノミネート作を見ているわけではないけれど、ちょっと賞レースとなると・・この出来は抜けてるな。
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舞台はアメリカ合衆国中西部に位置するミズーリ州。
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ミシシッピ川や南北戦争やインディアンなど、自然と伝統と悲しい歴史がある地ですね。2015年ディカプリオがオスカーに輝いた『レヴェナント』のオープニングでビーバー狩りをしていたがミシシッピ川でしたから、ミズーリの古い土地柄の印象が私にはある程度付きました。
交通量ないアメリカの田舎道で1人、年季の入った看板の前に佇む初老の女性。
遠目からだと背が高く大きいので、男性にも見えました。
彼女の名前はミルドレッド。広島東洋カープの助っ人外国人みたいなお名前です。
何かを納得したかのように、女性はその足で町の広告代理店に行き、経営者の青年に、あの道にある「3枚の看板」を私用で使いたいと契約します。
ミルドレッド・ヘイズ
苗字を伝えれば、彼女の正体が分かる田舎町。
あぁ、あのヘイズさんか。。。。
そうして完成された3枚の看板が貼り出されるのですが、
(タイトルにもなる)スリー・ビルボードには、赤い壁紙に黒い文字で「娘はレイプされて焼き殺された」「犯人は未だに捕まらない」「どうしてだ?ウィロビー署長」と記されていたのです。
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田舎町で起きた残虐な事件の被害者、その母親だったのです。
それを知った上で、この母親を改めて観てみると、悲しみに暮れるよりも、何かを決意し鬼のように復讐に燃える人間という見方になりました。
続いて母親は看板のメッセージに注目させる目的で、テレビ局に取材させ、テレビがそれを報道。この事件の背景が次第に映し出されて行くのです。(放送の規模が、州テレビか町のケーブルか、全米放送かは分かりませんが。おそらくケーブルテレビかな?)
彼女ミルドレッドの娘は7ヶ月前の夜、何者かにレイプされ、翌日に焼死体で発見されました。犯人の異常心理が過ぎますよね。残虐かつ最悪な出来事。
そして田舎町で起きた事件なので町民の「誰もが知っている」状況です。
事件発生から7ヶ月が経ち、未だに捕まらない犯人。
警察は何をしているの?遺族にとって当然の疑問と焦燥感が生じることになるでしょうけど、アメリカは広いし、国外に逃亡している可能性もあるし、手がかりは少ない。何より防犯カメラ自体がないです。
警察の捜査は難航。このまま未解決事件になるのでしょうか?
そうならないために母親の取った行動は、ある意味、理解できます。
しかし、この母親の行動に市民は怒ります。
同情はするが、ここまですることはないのではないか?
そしてもう一つの激怒理由が、名指しでの中傷。
人格者で信頼も厚い警察署長を名指しで非難する。これが一番の怒り新党。
田舎町のお巡りさん。市民の信頼も信用もとにかく高い。
この看板がなければ「娘はレイプされ殺された」「犯人は未だに捕まらない」という普通のメッセージですからね。3枚目の名前入りの看板が映画的には異常になります。
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何を考えているんだ。今すぐ看板を撤去しろ。
批判派が圧倒的に多い中で、頑張れと応援派も少数ながらいる。
しかし応援派はサイレントマジョリティー。
市民は、この遺族の母親や家族に対して、敬遠的に時に攻撃的に接してくる。
特に感情的になっているのは警察署員たちです。
警察署の職員たちは家族のよう。身内を攻撃された。
【ウディ・ハレルソン】〔56〕演じるウィロビー署長の信頼は市民だけでなく、署員たちにも絶大でした。
中にはウィロビーを親のように慕う者もいて、上司(親)を非難されたと受け取りミルドレッドに対して、相当攻撃的に接していきます。
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警察はミルドレッドに看板を撤去するよう命じます。
(個人で支払うには)高額ですが広告費を払っているし、(これも驚きですが看板への用語も)記載のルールに違反していないようなので、本人の承諾なしに強制撤去をすることは出来ません。こうして動かされた石(意思)。
多分これが全てです、この映画は。
ミルドレッドに引き下がる気配がないので、警察署員は真向かいにある広告会社に行き経営者を脅したり、彼女に精神的ショックを与えるために、彼女の友人を逮捕したり、嫌がらせをするようになります。
あの手この手で看板の撤去をさせようとする1人の警察官。
ミルドレッドの度が過ぎる行為に苛立つ町の住民。それでも母親は主人公は意志を曲げない。まるで貴乃花親方みたい。
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夫とは離婚し、高校生の息子と二人で暮らすシングルマザー。
7ヶ月前は3人で暮らしていた、という事を想像しながら鑑賞していました。
元夫チャーリーは劇中に何度か登場しますが、随分ダンディーなルックスで、渋カジの西部男といった感じ。
19才の女性と真剣交際していて、常に横に連れています。
間に「誰か」を挟まないとダメなのでしょう。
ここで思ったのは、チャーリー・・・あまりに女性の好みのタイプが違いすぎるんじゃないΣ(・□・;)??
こんなに若くて、顔の小さい女性を連れていると、この母親と夫婦だった時の絵が想像できなかったです(⌒-⌒; )
逆に今連れてる女性の方が、この男にはデフォルメ的に合っているんじゃないかな?
一人息子のロビーは最初、看板を出した母親の行動に憤慨しますが、徐々に協力するようになり、姉の無念を晴らしたいと気持ちをあらわにしていきます。
彼もまた姉を最悪な亡くし方で失った人物です。血を分けた姉弟ですからね。。。悲しいでしょうし、悔しいでしょうね。
学校では勿論いじめられますけど、ある日の送り迎えで、母親が学生に攻撃し「ナイス、ママ!」というくらいですから強い子だと思いました。
きっとそれ以降、ロビーは学校でイジメられなくなったでしょう。近付かんとこ。何するか分からない親って、こういう映画だと頼もしいな。
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ミルドレッドを演じる主演女優は【フランシス・マクドーマンド】〔60〕。
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フランシス・マクドーマンドといえば、コーエン兄弟の代表作1996年の映画『ファーゴ』にてオスカー女優となった人物。
今回22年ぶり2度目のオスカー受賞となるか!?(なるでしょうけど。)
私が感じたミルドレッドは、とにかく意識を強く持った女性です。
意思を強く持つ、という意識を強く持っています。
意識を強く持つ人物を演じるということは、ある意味、女優の腕が鳴る役だと思いますね。
劇中に一切、ミルドレッドは怯みません。男相手・警察相手でも胸を張って顎を引いて、目線を外さない。だから迫力のある映像になっています。
これだけ派手な事をしても、生活のリズムを崩さず、逃げも隠れもしません。それゆえに、危険な状況にも遭遇することになります。
彼女が勤める土産屋に客を装い入ってくる男の場面では「怖かった」(助かった、ありがとう)と初めて弱さを見せているのが、彼女の本当を視れて印象的なシーンでした。
また、生まれたところや環境って其々ですから、人物像に大きく影響しますけど
この映画に出てくる女性達がとても気が強くて、言葉も汚く、言葉使いも悪い。見ているぶんには下品です。
(日本人の私には、カカァでも、女性には大和撫子さを求めたい感覚になります(⌒-⌒; ))
ミルドレッドも、こちらは遺伝なのか?ミルドレッドの亡くなった娘も、そして母親と暮らす独身警官の母親も言葉遣いが汚くって・・・西部地方はそういう(自分が思う女らしさがあまりない)町なのかなぁ?と印象が付く。
フランシス・マクドーマンドはアカデミー賞で、まず間違いなく主演女優賞を獲得するのでしょうけど、このミルドレッドで受賞って、納得はしますが、役が役なのでスッキリはしませんね。
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こうして3枚の看板が貼り出されたことにより、世間の目は集まりました。
しかしだからと言って「この事件だけのために」警察の足を向かせるほど、単純ではないです。
警察は、これまで通り正義の気持ちで、遺族の無念を晴らすべく、事件の早期解決のために尽力しているように私には観えます。
表立って苛立っているのは、【サム・ロックウェル】〔49〕演じる警官ディクソン。序盤から苛立ちを隠さずに、ミルドレッドに対し撤去を求めるし、父親のように慕う署長を攻撃されていることも重なり「親の仇」を魅せていきます。
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(父親のように慕う、という紹介から役の年齢設定は低めなのかな?)
警察官としての資質より、感情をコントロールできず暴走し、仲間も止めに入らない。止めてくれる仲間がいない。あぁだから叱ってくれる署長は父親みたいになるのか。
ほんと、どうして警官になったのか、最初に紹介して欲しくなるような人物です。
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監督の【マーティン・マクドーナー】は脚本家として有名な映画監督。
各シーンごとに名作となる芸的な映像描写があった。
特に私が印象に残っているのは、前半終わりの「警察署長ウィロビーの拳銃自殺」のシーンで、彼の死から展開して行く映像と、自分の死後に生きる者達へ書かれた手紙内容が見事に映画の進行とシンクロしていく様子は鳥肌ものでした!!
後世に語り継ぐワンシーンを作ろうとしたんだと思う。
以降も過激なシーンが続くのに、映画が醸し出せる芸術性を強く感じる結果になるので、きっと貴方様も衝撃的に感動することになるでしょう。
ウィロビー署長は登場シーンで、看板を張り出した広告代理店の店主に対して、こういう態度でした。
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アメリカ人が、机の上に足を乗せる、のは未だに見ていて「えっ?」となり、慣れませんけど、警察の圧みたいな表情も見せているので、そこまで人徳者ではないのでは?と思いました。
ですが一向に用件を飲まないミルドレッドと、彼女の真意を直接聞き、そして自分の余命が残り僅かだと知る展開の中で、署長も人間味の弱さを魅せていきます。弱さは優しさで、優しさは人格に。
この拳銃自殺以降は、死者に対する弔というか、彼の生き様を尊重したいなと思っている自分がいて、好印象に変わりました。
警察署長のハートの熱さは、日本でいう武士のようで、親心も兄貴気質も入っていて、心に沁みる箇所が多かったです。
この映画には、態度が悪く癖が強い大人たちが出てくるけれど、それぞれに自分の弱さも見せてくれるので、弱さを見せることで、観客の心も拓けていくのだろうと思います。
まだ幼い2人の娘を残し、愛する妻を残し、そして沢山の市民と仲間を残して、旅立っていった町のお巡りさん。
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日本も一昔前までは『海賊と呼ばれた男』だとか部下が上司を父親のように慕うという形ではない信頼関係がありましたけど、この映画のこの地域ではそういう男の中の心意気みたいなものが根深くあって、
警察署長の訃報で、職員のほとんどが号泣している光景だとか、問題児の警官も声を出してエンエンと泣いているのを見ると、この署長がどれだけ生前に愛されていたのかは分かります。
だけど不思議だなぁ。
アメリカは大国ですし、各州ごと、各市町村ごとにも法律や規制があって、その地域に住む人の考え方も生き方も違うでしょうから、正確に映画を理解しようとなると覚えることが多くてホント大変。
アメリカ映画という1くくりよりは、ミズーリ州映画ですからね。日本のように東西南北同じ考えだとか1括りで紹介できない難しさがあります。
差別主義者(レイテスト)の警官が市民を逆恨みで暴行(半殺し)したり、
市民が警察署に火炎瓶を投げ込んで放火したり、
警察は、その犯人がミルドレッドと分かっていて逮捕しなかったり、
「普通に考えて」という概念が通用しない映画でした。
1人で生きていかなければ行かない。ラストシーンでミルドレッドが寝ている息子を見つめるシーンが大変印象的です。
生きるって、それだけで、すごいな。
カントリードラマの傑作を見た感じです。
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脚本 14点
演技 15点
構成 15点
展開 17点
完成度15点
〔76〕点
こちらはYouTubeの予告動画です。
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【mAb】